giko47yama   夜叉が池 山行
2004/06/19

夜叉が池 山行のご報告 
2004/06/19 

10:00 登山口駐車場  

参加者 今村、高間、片山、片山さんのご主人、名和、鬼頭の六人。

20日に実施予定だった夜叉が池山行ですが、天気が崩れる前にと、急遽19日に変更。少人数の山行になりました。
皆さんの寄せられた投稿
※現在はリンク切れ
高間さん
片山さん(ご主人)giko47yama
伊吹くん
山下くん
片山さん(ご主人)giko47
名和くん
水野くん
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さあ出発! さっきまで霧雨が降っていたけれど大丈夫かなあ
名和 高間 片山 今村 片山さんのご主人 鬼頭
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山下くーん、なんて花だっけ。忘れてしまった^^;
「ヤマボウシ」でした。
山下君と名和君から情報が寄せられました。
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ぶなの林を行きます
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ぶなの林に溶け込んで
 池の又谷を眼下に見ながら、山腹をなだらかにトラバースする登山道です。両脇にはブナ林が広がり、ブナ林独特の明るさに包まれながら登ります。多くの鳥たちの鳴き声が聞こえますが、残念ながらウグイスくらいしか分かる人がいません。オオルリのような、ホオジロのような、と言いながらも、その二つの区別もつきません。山下君がいてくれたら!
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ぶなを見上げると心が優しくなります
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ぶなの巨木の脇を行きます
 それにしてもこの登山道のブナ林は見事です。ブナの細いもの、中くらいのもの、そして巨木が混在し、長い年月の間安定して世代交代を繰り返していることが分かります。今は新緑がとてもきれいですが、秋の黄葉の時もきれいだと思いました。
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幽玄の滝
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枯れ木の先で小鳥が鳴きます。山下くん、これはなんだろう?
ピヨッピピピピピッジジジーと鳴いていました
「オオルリ」でした。山下くんありがとう^^
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アクシデント発生!片山さんの靴の底が劣化していて
外れてしまいました。紐で縛りつけて歩きます。
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昇竜の滝と右上に夜叉壁の岩壁
 途中、幽玄の滝のあたりでアクシデントが発生。片山さんの靴底が劣化していてボロッと外れかけてしまいました。「おーい、専門家のあーる工房」と今村君に呼ばれましたが、「ああ、これは発泡ウレタン系の素材にある現象で、七年から十年ほどすると加水分解を起こしてくずれてしまうんだよ」と診断はついても、道具も接着剤もない山の中では手のうちようがありません。仕方なくみんなのザックの中から紐を探し出し、縛り付けてだましだましの登山になりました。
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うわさの鎖場。そんなに心配するほどでもないですよ。
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でも、こわーい!四つんばいになる高間さん。
今村君!真剣なんだから笑っちゃだめだよ^^
■少し拡大
 標高が上がるにつれて植生が変わり、まわりの樹の背丈が低くなってきた頃、問題の(笑)夜叉壁のくさり場に到着です。眼前には見事な岸壁が立ちはだかるのですが、ルートはその左のはずれのがれ場のようになったところを巻いてつけられていて、一部ロープが張られてはいますがそれほどのことはありません。その証拠にというか、高間さんの名誉のために書き添えますが、帰りに通ったときは高間さんも平気でした。
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ニッコウキスゲ(近似種)が咲いていました。
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見えたあ
 さて、その急斜面を越えると尾根に出て小規模だけれどお花畑が広がります。そしてその向こうに待望の夜叉が池が!
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強い風の中、記念撮影
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モリアオガエルの卵の泡々が池の周りにたくさんありました。
 池のほとりを巡ります。夜叉龍神社の祠があります。池の水面に突き出した木の枝のあちこちにモリアオガエルの卵の泡々(ソフトボール大でした)がついています。池の中を見るとイモリがうねうねと泳ぎ、アメンボが水面をすべり、そして待望のヤシャゲンゴロウが!
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夜叉龍神社の祠
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石碑
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池のほとりでお弁当。晴れてきて暑いくらい。よかったあ。
実はこのときちょっとした事件があって、その後の貴重な体験につながっていくのです。
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目の前には神秘的な龍神伝説の池が広がります。
■少し拡大
 さて、待ちに待ったお弁当タイムです。気持ちよさそうなところに陣取ります。少し風が強いけれど、次第に晴れ間も広がり快適です。おにぎりを出し、今村君がいつものようにガスバーナーを出して鮎を焼いてみんなでおいしく食べていると、パトロール員の黄色い腕章をした人が近づいてきて「火気使用は禁止です」といいます。「そうなんですか」「立て看板の注意書きにちゃんと書いてあります」「あ、そうですか」というやり取りがあり、やむなく二匹目を断念したわけです。みていると、池で手を洗った人にも注意をしています。僕たちは決してごみを捨てたりしないし、ローインパクトで歩いているつもりだし、ちょっと心外です。

「俺は昼にラーメンを持ってきたのに、食べられないじゃないか」
「手をつけてもいけないなんて、ちょっと厳しすぎない」
「焚き火をするわけじゃなし、山でガスバーナーがなかったら飢え死にするやつが出てくるぞ。」
「なんかちょっと興がそがれちゃったね」
「ゲンゴロウ捕まえて、そのガスバーナー使って佃煮でも作るか」
「から揚げのほうがおいしいんじゃない」
言いたいことを言い合って、ちょっとだけ溜飲を下げました(笑)。
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いました!ヤシャゲンゴロウ! イモリもアメンボもたくさんいました。
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勉強の教材です ■拡大
 けれどそこは高間さんの偉いところ。このままでは何だから話をしようと彼女が言い出しました。そして帰り際に声をかけたら、熱心に答えてくれました。その方は林野庁の関係の方で、近畿中国森林管理局の職員ということでした。そして思いがけずその方(MKさんとおっしゃいました)と、三十分ほどの有意義な討論会になったのです。
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頂上部分のお花畑
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池をバックに
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これは蝶?蛾?チョウだと思うんだけどなんだろう?
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無事帰ってきました。
天気も上々、ご苦労様。片山さんの靴もね(^^)
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 火気使用の件は、国立公園内で火災防止の意味合いも当然あるけれど、それ以上にヤシャゲンゴロウの保護のためだと言うことでした。ヤシャゲンゴロウは世界中でこの夜叉が池にしか生息しない固有の種です。成虫が飛んだのを観た記録はなく、この閉ざされた小宇宙とでも言うべき夜叉が池から移り住むことは考えられないということです。

 夜叉が池には固有の生態系があります。ヤシャゲンゴロウにとって、たくさんいるイモリは幼虫を食べる天敵です。ところが、ヤシャゲンゴロウの幼虫が孵化するちょうどその頃、モリアオガエルの卵がかえり、おたまじゃくしがいっぱい生まれます。イモリはヤシャゲンゴロウの幼虫よりおたまじゃくしのほうが好物なのです。おかげでヤシャゲンゴロウの幼虫は全部食べられずに生き延びます。そして成虫になったヤシャゲンゴロウが今度は弱ったイモリを食べます。その意味でヤシャゲンゴロウはこの閉ざされた生態系の頂点に立っているのです。それが、太古の昔よりヤシャゲンゴロウが生き延びて、固有の種として進化してきた理由です。

 池には流れ込む沢はなく、数箇所の湧き水によって年間を通じてほぼ同じ水位を保っています。山上の湖沼にありがちの貧栄養の水質で、魚は棲みません。微妙なバランスで保たれている棲息環境は、ちょっとしたインパクトで崩れてしまうでしょう。ところが、最近登山者が増え、本来池の水の成分中にあるはずのない成分が観測されるようになりました。その大きな原因のひとつにラーメンの汁があるということです。バーナーでお湯を沸かし、ラーメンを作り、残した汁を池の近くに捨て、コッヘルを池の水で洗うことにより池が汚染されます。やむを得ず注意をするのですが、中にはそれを快く思わない人がいて、林野庁のホームページの掲示板に心無い投稿がされたりするそうです。そんなものを観ると、MKさんご自身もつらい思いをされるそうです。

 さらに複雑な事情があります。夜叉が池は国有林ですが、夜叉が池伝説があるように、ほとりには神社があり、龍神が祭られています。古くより人々は雨乞いをし、おそらくは龍神に人身御供をささげてきました。その名残としての神事が毎年行われ、その際に塩でお清めがされ、盛り塩が盛られ、三方に様々な供物を載せて池に放たれます。それが原因で塩化ナトリウムの汚染が広がります。流された三方を回収すると神社側から「それはお供え物だから勝手に回収されては困る」というクレームが入るということです。

 去年ヤシャゲンゴロウの生態調査が行われ、その結果は八年前に比べて半減しているということでした。またMKさんに教えていただいたのですが、ヤシャゲンゴロウは絶滅危惧種の一類に分類されているそうです。トキと同じレベルだと聞いて驚きました。ヤシャゲンゴロウの写真を見てください。単なる真っ黒な虫けらにしか過ぎません。けれどこの夜叉が池で絶滅したら、二度と帰ることはありません。たかが虫、されど虫なのですね。

 今村君が言いました。「環境を守りたいなら、林道を舗装したり駐車場を整備したりしたらだめだ。アスファルトを引っぺがして、駐車場をなくしたら誰も登りたがらなくなる。僕はそれでも登るけどね」それもひとつの方法ではあります。たとえばいったいを立ち入り禁止にして何十年もすれば、森は太古の姿に帰っていくでしょう。そして、ごくたまに物好きな研究者が訪れる以外は、夜叉が池はひっそりと佇むばかりです。それがいいのかどうか僕には分かりません。何とか人間と希少動物が暮らす環境と共存できる方法はないのでしょうか。

僕がそういったらMKさんは「それが林野庁の考え方なのです」とおっしゃいました。「今は林野庁の管轄ですが、ヤシャゲンゴロウ特別保護の指定を受け、環境省の管轄になるとこのあたりは立ち入り禁止か、有料のガイド無しには入れなくなるでしょう。私たちはそういうことではなくて、皆さんに来て頂く中で環境保護を考えていきたいのです。そのためには少しずつ規制をさせていただくしかないのです」そういいながらMKさんは池の向こうに眼をやります。そこには池で手を洗っている親子連れがいました。そのとたんMKさんはピピーッと笛を吹き、「池で手を洗わなーい!」と大声で叫びました。そして「本当はこんなことしたくないんですが。きょうはいろいろご理解いただきましてありがとうございます」と言いながら親子連れを注意しに行かれました。

 帰り道を下りながら高間さんが「やっぱり感じ悪いなあと思ったままで帰るより、声をかけてよかったね」と言いました。僕はもちろん多分ほかのメンバーも皆同じ気持ちだったのではないでしょうか。夜叉が池山行は思いがけず環境保護の難しさとか、小さな生き物の命の不思議を考えさせてくれるものになりました。

 最後に、もうすぐ駐車場というところになって、片山さんのご主人の靴底も壊れてしまいました。十年ほど昔の同じ日に買った二人の登山靴は、壊れた日も十年たった同じ日ということで、お二人のおしどり夫婦ぶりに驚くやらあきれるやら。何はともあれ滑り込みで無事下山を果たしました。

文、写真   鬼頭

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